「こら、昴センパイ」


ペシ、と頭をはたかれて、また慌てて顔を上げた。

真夏くんはそんなに変わらないけれど、あれ、でも、ちょっとむすっとした顔? なんで?


「顔伏せちゃだめじゃん。なんのために花付けたと思ってんの?」


知らないけど。なんのためとか、あたしのが訊きたいけど。

てか、真夏くんに怒られたの、これが初めてかも。真夏くんが怒ってるのだって、たぶん、初めて見た。


ていうか、真夏くんはさ、一体、何を。


「昴センパイはさ、どうしていつも下を向くの」

「…………」

「お花、可愛いんだから、見えるように顔上げてよ」


真夏くんの目。逸らせなくて真っ直ぐに見つめている。

真夏くんも、あたしを見てて。なんだか、とても必死で。何か、伝えようとしてて。


いつも思うよ。真夏くんの言葉ってさ、なんか、深く突き刺さるんだ。あたしがどうにか目を逸らしてるとこ、突き刺して痛みを与えるんだけど、それ以上に優しいのを、そこからじわっと沁み渡らせる。

なんでなんだろうって思ってる。あたし、なんにも、言ってないのに。


「ねえ昴センパイ、つまづいて転んだっていいんだから、もっともっと上を見ようよ。ねえ、ほら、センパイだってもう知ってるんでしょ」


あたしの今考えてることわかってるみたいに、真夏くんの言葉って、いつも。


「世界はこんなにも、広くて綺麗なのに」



そう。知ってるんだ。世界はこんなに、広くて綺麗。

十分に知ってる。だって、だってね、あたしの世界だって、きみとおんなじに。


いつだってこんな風に、きらきらと、光っていたの。