『真っ暗闇じゃないよ』
前に、きみが言っていたこと。
何のことを言ったのか、あたしにはよくわかんなかった。
でもたとえば。それが、小さな小さな、自分の中の、世界の話だとすれば。
『怖くなんかない』
本当に、真っ暗闇だと思った場所にも、まだ光は、輝いているの?
「ねえ昴センパイ」
呼ばれてふと振り向いた。
真夏くんはいつの間にか体を起こしていて、右手で小さな花を摘んでいた。
「これ、なんて名前?」
首を傾げる真夏くんに、あたしも起き上がって一緒に首を傾げた。質問の答えがわからなかったからじゃなくって、急に何を言いだすんだろうっていうハテナマークだ。
真夏くん、なんかの冗談のつもりかな。いや、それにしては顔つきが真剣だけど。そう言えば真夏くんって冗談とか言わないし。
「えっと……シロツメ草、かな」
「じゃあこれは?」
「んー、忘れな草だと思うけど」
「こっちのは?」
「それ、なんだろうね。よく見る気がするけど、わかんないや」
「そっか……」
シュンとする真夏くん。その姿に、答えがわからなくて申し訳ないって気持ちより、先に、なんだか笑いが込み上げてきた。