ひと気のない廊下を歩きながら、プランと、指先で摘まんで目の前に鍵を掲げてみる。

ごく普通の鍵だ。新品って感じじゃない。ちょっと古そうな気がするのは、一緒に付いているキーホルダーが随分汚れているからだ。

黄色い星のキーホルダー。揺らすと、鍵とぶつかってカシカシ小さな音を立てる。


「……てゆーか」


これ、なんの鍵だろう。どこかのドアのだと思うんだけど。

開けといて、って頼まれたのはいいけど、一番大事なことを聞き忘れちゃってるじゃん。高良先生も、一番大事なこと言い忘れてる。


ためしに。たまたま通りがかったところにあった社会化準備室のドアに差し込んでみた。

当然開かない。だよねえと、こっそりため息を吐く。

本当にコレ、どこの鍵なんだろう。

音楽室とか美術室は、部活の人たちが使っててもう開いてるはずだしなあ。


「…………」


そう言えば、こっそりやれって先生言ってたっけ。誰にも内緒って。

つまり本当なら開けちゃいけない場所ってことかな。

生徒が入るのを、禁止されている場所……。


「あ」


ピンと、一ヵ所だけ思い当るところがあった。

ぶら下げている鍵を見て、まさかなあって思いながらも、あたしは足をそこへ進めた。