真夏くんはちょっと訝しげな顔であたしを見ていたけれど、あたしがにへっと笑うとぷいと目を逸らした。

代わりに見るのは画面の中の電話帳。たった数人しかいないその中に、ひとつ、あたしの名前。


「本当は他のなんていらないんだ。昴センパイのだけでいい」


真夏くんがぽつりと呟く。

小さなスマホを大切にそうに両手で持って、画面の中の文字、じっと見つめて。


……ああもう、ほんとさ、真夏くんって結構照れ屋さんのくせにそういうこと平気で言っちゃうんだもん、やんなるよ。

真夏くんがそういうこと言っちゃうたび、あたしがどんなふうになってるか、きみは、知らないんだ。


「昴センパイ」

「ん」

「これで夏休みにも会えるよね」


真夏くんが言う。


「……うん。会える」

「よかった。ねえ、8月はペルセウス座流星群が見られるから一緒に見よ。すごく綺麗だよ」

「うん、わかった。忘れないように予定に入れとく」

「うん」


真夏くんが笑うから、あたしもつられてきみよりも変な顔で笑っちゃう。

そう言えば、真夏くんの笑った顔って、見るの好きだなあ。

たまにしか見せてくれないけど、たまに見せてくれる顔。


「嬉しいな。誰かと一緒に見るの、久しぶりだから。昴センパイと見られるの、楽しみだ」


その声を、聞きながら。あたしはばれないように深く息を吸った。

なんだろな、体の真ん中らへんがすごく苦しいよ。泣きたくなるんだ。でも嫌な感じじゃないの。苦しいのにね、なんでかこんなにも優しいから。


真夏くんといるとこんな風になっちゃうんだよ。こんなの贅沢だってわかってる。今までの時間だけでも十分なはずなのにね。

でもねあたし、もっとさ、もっときみと、真夏くんと。

一緒にいたいなあって、そんなこと、最近、思い始めちゃっているんだ。