「……出ない?」

「うーん、まだ……あっ、出た! 本当に繋がった!」


わっと真夏くんが嬉しそうな顔をした。スピーカーの向こうからあたしのところまで微かに声が聞こえるけれど、真夏くんはそれを無視してひとりで喜んで、一通り嬉しがったら「じゃあもう切っていいよ」って電話の向こうの高良先生とは一言も会話をせずに通話を終えた。高良先生ドンマイ。


「先生、何事かと思っただろうね」

「順平くんだからいいよ。ねえ、昴センパイの番号もおれのケータイに入れといて」

「あたしの?」

「うん。そのために買ったんだから。昴センパイのにもおれの入れておいてね」


早く、と真夏くんが急かすから、あたしは真夏くんの電話帳に自分の番号を入れて、それから自分のスマホに真夏くんの番号を入れた。

家族とか、友達とか、行きつけの整体院とか。そんなのが入ったあたしの電話帳に『宮野真夏』の文字が加わる。

真夏くんの名前と、真夏くんに繋がるケータイ番号。

うーん……なんか、これ、すごいことなんじゃないかな。


「……昴センパイ、今何考えてる?」

「真夏くんの番号って、高く売れるだろうなって考えてる」


みんな欲しがるだろうし。


「そんなことしたら怒るよ」

「あは、冗談だよ。真夏くんとのことは内緒だもん」


そうだよ。これはふたりだけの秘密なんだ。誰にも見せたりしないって。

あたしだけが知ってる、みんなが知らない真夏くん。