慌てるあたしをよそに、なんとも冷静に、真夏くんはひょいと右手をあたしに向けた。その手に持つのは見慣れた四角い機械。真っ黒な画面には覗き込むあたしの顔が映っていた。てかこれって。


「……スマホ」

「うん」

「誰の?」

「おれの」

「……何で持ってるの?」

「兄貴に頼んで買ってもらったんだ。これがあれば夏休みも、昴センパイと連絡とれるでしょ」


あたしは力が抜けたように細長い息を吐き出しながら、真夏くんの横にぺたりと座った。

真夏くんが持つスマホはあたしとおんなじ機種だ。最新のじゃないけれど、そんなに古くもないやつ。


「でもさ、買ったのはいいんだけど、全然使い方がわかんないの。だからすごい困ってるとこ」

「なるほど」

「おれはもっとカンタンな操作のやつでよかったんだけどさ、兄貴がそれはご年配の方用のって、イマドキの高校生がそんなん持っててどうするって言って。でもほんと使えなくって。ケータイ電話なのに電話の仕方もわかんない」


真夏くんはじっと画面を睨みつけたまま、本当に困ったような顔。そう言えばうちのおじいちゃんにケータイ持たせたときも同じような顔してたなあ。


「電話はこれだよ。電話帳とかに番号入れとけばすぐにかけられるし……あれ、いくつかもう入ってるね」

「家族の分は兄貴が入れてくれてたはず。あと、たぶん順平くんも勝手に入れてた」

「高良先生のはこれだね」

「ちょっとかけてみよう」


いいのかなって思ったけど、真夏くんがいいって言うから通話ボタンを押してみた。真夏くんの耳にスマホを当ててあげると、真夏くんはじっと黙って呼び出し音を聞いている。