「内村くん……!」
ご本人様の登場に、さすがの先輩たちも戸惑いを隠せない。
後ろからでは、先輩が今どんな顔をしてるのかわからないけど、声のトーンはいつもより低い気がする。
「かえでちゃんに、これ以上突っかかるのはやめてくれる?」
「でもそいつ、毎日内村くんに……」
まだ何か言おうとしてる先輩たちを、柊先輩は普段なら言わなそうな一言で黙らせた。
「俺が迷惑してんのはお前らのほうだから」
……一瞬でその場の空気が凍ったのを、私は感じた。
「じゃあ、行こっか。かえでちゃん」
「えっ、あの、この人たちは……」
固まっている先輩たちのことが気にかかり、私は歩き出そうとする先輩を引き止める。
「ほっとけばいいよ。俺の大事な人の悪口言ってた奴らに、もう用はないよ」
せ、先輩……!怖い!
黒い笑顔といえばいいのかな、そんな感じのあまり爽やかではない笑顔で言ったあと、柊先輩はスタスタと歩いて行く。
“大事な人”か……。
それって、私だけじゃなくて梨花さんのこともだよね……。
助けてもらったのに、そう考えると複雑な気持ちが広がっていく。
嫌な気持ちを無理矢理頭から消しさって、先輩のあとを追った。