「それから、体育着のゼッケンから知った内村っていう苗字だけを頼りに、先輩がバスケ部だということを探り当てて。試合を見たりしているうちに、いつしか先輩に惹かれていったのです……」


あの日の、爽やかなドキドキというか、まさしく青春っぽい思い出は色褪せることはない。


回想終了して幸せそうに目を細める私を、西崎がそりゃあもう気持ち悪そうに見ていたけど、構うもんですか。


「なるほど。そりゃあ、惚れてしまうのもわかりますねぇ。女子ならお姫様だっこは一度は憧れるものですから」


「でしょでしょー♪」


菜々の言葉に私がハイテンションで返すと、西崎が少し面白くなさそうに口を尖らせる。
そして、一言。


「で?ちゃんと“お礼”はしたのかよ?」


それを聞いた瞬間、ピシッと石化したように私の動きが止まった。


「ううっ……それがですね……。陰から見てるので精一杯で、お礼しに行くタイミングを逃し続けまして……」


そうして、あの日のお礼はできないまま、先輩は3年生に。私は2年生になってしまったのです……。