「いやいや、住み着いて子供でも生んだら大変ですよ」
ガラついた声に嫌味な話し方。
生徒からはあまり評判の良くない3年の学年主任だ。
「保健所に連絡するのが手っ取り早いでしょうなぁ、教頭」
私は慌てて一歩前に出る。
「ま、待ってください。それだと子猫が死んじゃいますっ」
必死に伝えるも、学年主任は鼻で笑った。
「何も保健所に行ったら必ず死ぬわけじゃない。里親が見つかることもあるんだ」
そう言われて、私の後ろに立っている赤名君がふてくされたように「そうかもしんないけど……」と呟いた。
良くない流れにどう説得するべきかと悩んでいたら、水樹先輩の凛とした声が耳に届く。
「見つからなかったら死んでしまいます」
私の右隣に立つ水樹先輩の瞳は、普段の柔らかい雰囲気からは想像もつかないほど、強く真っ直ぐで。
その瞳に学年主任も一瞬たじろいだ──けれど。
「そうなったら、それも致し方ないだろう」
なぜか半笑いしながら言った。