「準備はいい?」


彼のクリッとした瞳が私を見て。


「お願いします!」


頷くと、赤名君はペダルをこぎ始めた。

彼のツーブロックのマッシュウルフヘアが風を受けて揺らぐ。

風を切る感覚が疲れて火照った体に心地良くて。


見上げた夏空は、高く、青く。


この夏は夢?


それとも、今までのが夢?


学校で水樹先輩の後姿を見かけて、追って、屋上に出たのも……


全部、夢だったのだろうか。


混乱する頭。


それでも目を閉じて感じる空気は、確かに、現実のものだった。