「水樹先輩、ありがとう。だけど……許しません」
私は真っ直ぐに、戸惑いに瞳を揺らす水樹先輩を見つめた。
「私の死を辛いと思ってくれるのはとても嬉しいです。でも、先輩が犠牲になるなんて嬉しくない」
そう、誰かの……大好きな人を犠牲にして生きるなんてちっとも嬉しくない。
「きっと、この夏には意味がある。だから、せめてこの夏だけは、私が水樹先輩を追いかけてきたこの夏だけは、逃げないで」
訴えながら、思い出す。
私はあの日、夕暮れの校内で水樹先輩の背中を追って屋上に出たのだ。
そこに先輩の姿はなかったけれど、強い想いで追いかけたからこそ、私は時を遡る事ができたんだろう。
「最後の瞬間まで諦めないでください。私だって、先輩のいなくなった未来なんて欲しくない」
誰も水樹先輩を覚えていない、あんな悲しい未来なんていらない。
きっぱりと言ってみせると、水樹先輩は「やっぱり……」と零して。
「俺は、隠されたんだね」
私に確かめる。