『水樹先輩、なんですかコレ。先輩が描いたの?』

『うん。有名なキャラだけど、映画観たことない?』

『うーん……全然覚えがないです』

『へー。珍しいね。トトロを観たことないなんて』


……トトロは知ってますけど。

むしろ好きですがコレはないです。

とは言えず、ただただ先輩の画力に戦慄を覚えたんだっけ。


私は窓際の先輩の席の前に立つ。

けれど、油性マジックで描かれている潰れたトトロらしきキャラクターは、そこにはいなかった。

念のため、全部の机を見てみたけど、潰れたトトロらしき……いや、トトロだと先輩は言っていたからトトロと言おう。

先輩の描いたトトロはどこにも見当たらない。

教室の前、廊下の壁際に設置されているロッカーに先輩の名前を探してみけど、やっぱり彼の名前はなかった。