「……マジで?」
身近な人の名前が出たことに驚いたのか、藍君が少しだけ目を見張る。
そんな彼に対して、私が頷きかけたら──
「呼んだ?」
「わっ」
突然、背後から聞こえた水樹先輩の声。
心臓と肩が大きく跳ねて、私は勢いよく振り返った。
微笑を携えた水樹先輩は「おはよ」と暢気な声で言って。
「俺の話題? あ、遅刻したの怒ってる?」
ごめんねと謝られる。
壁の上部に飾られているアンティークなデザインの時計を見上げると、確かに少しだけ時間が過ぎていた。
でも、5分も過ぎていない。
私は急ぎ笑顔を作った。