「さんきゅ」


藍君は、珍しく優しい笑みを浮かべた。

滅多に見れない藍君の笑みに、私の頬も緩まって。


ふと、太陽が雲に隠れて降り注ぐ熱が和らぐと。


「にしても、高杉さんはどんな気持ちだったんだろうな。覚えてるのに誰だかわからないなんてさ」


空を見上げながら、藍君が話す。


どんな気持ちだったか……私には、わかる。

今ではない、夏の一日。

思い出すだけで今もまた胸を走る痛み。


……話しても、いいかな?

もしかしたら大切な家族を失ったかもしれない、藍君なら。

私は、キュッと拳を握ると──


「あの、ね……私も、似たような経験があるんだ」


苦笑いを漏らし、打ち明けた。