水樹先輩の耳にも届いたのか、彼は人差し指を唇の前に立てる。
静かに、という合図に首を縦に振って従うと、先輩は立てていた人差し指で岩の壁を差した。
私は水樹先輩と一緒に、そっと顔を出して壁の向こうの様子を確認する。
するとそこには。
「なんだよ、こんだけしか持ってねーの?」
「これじゃーすぐなくなるじゃん。使えねーなぁ」
壁際に追い詰められた赤名君がいた。
赤名君は眉根を寄せ、足元に視線を落としている。
彼を囲む元クラスメイトたちの1人の手には、赤名君のものと思われるお財布。
お金をたかられているのだとすぐにわかった。
「まあいいや。今日はこれで勘弁してやるよ」
言いながら赤名君の顔に向かってお財布をポンと投げる。
赤名君はそれを受け取ろうとはせず、顔に当たって落ちたお財布をただ眺めているだけだった。