「名前も覚えてないですか?」


すると、高杉さんは考えるように天井を仰ぎ見て。


「覚えてない……あ、いや、僕は覚えてないけどね。友達は"えっちゃんがいない"ってうるさかったって」


彼女さんのあだ名らしきものを口にした。

直後、私の隣に座っていた藍君の体がピクリと動いて。


「藍君?」

「……聞いたことがある気が、する」


藍君は、あの夜の校舎で女の人を見た時のような顔をしている。

赤名君はうちの学校にもそんなあだ名の子がいるかもと話してるけど……


もしかしたら、高杉さんの彼女さんと藍君は、無関係では……ない?

けれど、関係があるという確証も得られず。


「それじゃあ、気をつけて帰るんだよ」


私たちは、高杉さんの家をあとにした──‥