「怒ると怖いおじいちゃんもいますよ?」


冗談めかして話すと、水樹先輩はクスッと笑って。


「それでも、この家よりはいいよ」


少しだけ、寂しそうに瞳を揺らした。

その姿に、以前、水樹先輩が家の事情を少し話してくれたのを思い出す。


「……先輩」

「ん?」


水樹先輩は私を見ないまま返事をしながらテーブルに突っ伏した。


「お家、嫌いなんですか?」


あまり聞いちゃいけないことだったかもしれない。

だけど、いまだその瞳に浮かぶ寂しげな色が、私の心を突き動かしてしまったのだ。


水樹先輩はテーブルに突っ伏したまま、顔を横にして私と視線を合わせると。


「嫌いじゃないけど……心地よさを感じないんだ」


ぼんやりと独り言のように話し始めた。