とても歯がゆいけど、少しだけ重くなった空気に、私は気を取り直して話題を変えることに。


「お家、広いですね。うちはアパートだから綺麗で羨ましいです」


最初にお邪魔する時にも綺麗だと口にしたんだけど、改めて声にすれば水樹先輩は小さく頭を振った。


「俺は真奈ちゃんちの方がいいな」

「え。うち、ちょいボロアパートですよ?」


おじいちゃんと暮らすアパートは、お世辞にも綺麗とも広いとも言えない古めのアパートだ。

ボロボロとまではいかないとはいえ、どう考えても水樹先輩のお家の方が素敵なのに。

けれど、先輩はそれでもうちの方がいいと言う。


極め付けに。


「どんな家でも、真奈ちゃんがいれば居心地良さそうだし」


そんなことまで言うものだから、冗談だと思っても嬉しさがこみ上げてしまう。

私は照れ隠しに笑いながら唇を動かした。