「実際、帰って来ない人はいたらしいよ」


水樹先輩の言葉は、神隠しの噂についてらしい。


「そうなんですか?」

「だけど、不思議とそれが誰だったのか覚えてる人はいないんだ」

「え?」

「その人がいた記録もない。でも、消えてしまったと探している人がいて……その奇妙さが語り継がれて今でも噂になって残ってる」


いたはずの人が消えてしまう。


それはまるで、あの夏の水樹先輩みたいで。


私は背中に嫌なものを感じ、身震いした。

思わず、先輩の手をつかんでしまう。


「……真奈ちゃん?」


月明かりに照らされた水樹先輩の顔は、どこか儚げで、綺麗で。


「先輩は、消えないでくださいね」


伝えると、水樹先輩は私を見つめながら薄く微笑む。