私が「ありがとうございます」と伝えると、先輩は何も言わずに微笑んで。

それから私たちは、探索を再開した。

もう怖いという気持ちは、すっかりと消えていた──


わけではなく。


「やっぱりまだ怖い?」

「ちょ、ちょっとだけ」


本当はちょっとではないんだけど、私はそう言って苦笑いする。

演劇部でのドッキリ以降、歩き回る程に恐怖心はじわじわと募るばかり。

その原因は、藍君の見たっていう女の人のせいだ。

それがずっと頭から離れない。

私は気を紛らわそうと、半歩前を歩く先輩に話しかける。


「先輩は、こんな風に夜の学校を歩いた経験あるんですか?」


怖がる様子もないし、なんとなく聞けば、水樹先輩は小さく首を横に振った。