「ごっ、ごめんなさいっ」


顔がカッと火照って、私は慌てて先輩の腕を解放した。

そんな私の様子がおかしかったのか、先輩は小さく笑う。


「残念。真奈ちゃんを抱き締めるチャンスだったのに」


おどけた口調。

からかわれてるとわかっていても、先輩に言われると心臓がドキドキと反応してしまう。


「先輩ってば、またそんな冗談言うんだから」


でも、これはきっと先輩の気遣いだ。

怖い気持ちを軽くしてくれようとからかったに違いない。


そう、思ったんだけど。


「ひどいな。俺は、本気だよ?」


月明かりと懐中電灯だけが頼りの暗がりの中、水樹先輩が真剣な眼差しで私を見つめた。


「え……あ、の……」


本気だと口にした先輩の表情には、冗談の欠片もなくて。

……本当に、本当に本気だとしたら。