「甘いかな?」


眉を下げながら笑う私に、先輩は首を横に振って。


「俺は好きだよ。家族を大切に思う君も、君らしくて」


【好き】


その言葉に、きっと深い意味なんてない。

だけど、変に意識してしまって心臓が騒ぎ出す。

このままじゃぎこちない空気になりそうな気がして、私はふと思った事を口にした。


「先輩のお父さんは穏やかそうなイメージがありますね」


水樹先輩に似てて、笑うとフワッとした印象のある人を想像する。

けれど、先輩は頭を振って否定した。

そして──


「俺、父親の性格どころか、顔も覚えてなんだ」


どんな声だったのかも。

どんな話し方だったのかも。

どんな癖があって、どんな風に笑うのか。


何も覚えてないんだと、水樹先輩は少し寂しそうに話した。