エタってしまった小説の世界で、ヤンデレ化した勇者が離してくれません。~聖女と呼ばれ執愛されていますが……読者です!~

異なる世界から人間を召喚するには手間がかかる。

禁書の翻訳、古代魔法陣の解読、異界への接続、魂の探知、そしてようやく召喚とくる。

禁書扱いとなっていた世界干渉の古代魔法が研究されている本を手に、バルトレッドは『異世界人召喚における特異点に対する考え方と論理的手法』と記述される頁を改めて読み返していた。

本日行う『魂の探知』が成功すれば、試運転を経て聖女召喚に進めるだろう。

「エギル、今日は聖女様の魂を探す。魔力供給を命じるが、手を抜くなよ」

「承知しました」

召喚に関わる魂の探知魔法の発動に必要な魔力はバルトレッドだけでは賄えない。故に魔力量の大きい魔族に命じ、供給させる事にしていた。

異界との接続に必要な水晶の前に立ち、バルトレッドが呪文を唱えると水晶は輝き始めた。

これまでの道のりは険しく、特に異界への接続には何度も失敗を繰り返したが、しかし今回の魂の探知については何の憂いもなかった。

バルトレッドは自負しているのだ。

唯一の光であった聖女の魂を自分が間違うはずがないと。

この城で死ぬ度に何度も見てきた。視線から始まり、声も、姿もバルトレッドは記憶に刻んでいる。

水晶の輝きは白く、激しさを増して、そして異界への接続が成功する。光が安定したところで脳裏に聖女を描きながらさらに呪文を唱えれば、光は事切れたかの如くプツと途切れた。

一見すれば失敗に思える現象だが、水晶の中心にはまだ輝きが僅かに残っている。

バルトレッドはそれがこれからどう変化するか冷静に見守っていた。

しばらくすると再び水晶は反応し、ぼんやりとした淡い光を灯す。

ーー成功だ。

まるで水晶自体が魂そのもののように、青白い光が繊細にゆらめいていた。

なんて美しい輝きだろう。

引き寄せられるようにしてそれに触れると、聖女ーーもとい”早乙女紗希“という女性の記憶が断片的に開示される。

現在の紗希は“会社”という何かしらの組織を抜けて、小さな店を営んでいるらしい。

「ーー無礼を承知で申し上げますが、魂を覗くなど人族の倫理に反するのでは?」

既に魔力供給を終え、これまで黙って控えていたエギルが不意に口を開いた。

探知後に自動的に展開された記憶、水晶から宙に投影された映像を見て言ってるようだ。

こればかりは仕方ない。

記憶が自動再生されるなど、魂の探知魔法を残した開発者側の問題である。

それ以前に血で血を争う倫理と遠くかけ離れた種族から発せられる言葉ではない。

胡乱な眼差しを向けると、鉄仮面のような感情の読めない表情があった。

それが余計に苛立たせる。

「は、魔族がよくいう。そもそもこれは不可抗力だ。すぐに切断を……」

しかしバルトレッドは途中で言葉を止めた。

無数にある断片的な紗希の記憶の中に気になるものがあったのだ。

「いかがされました?魔王様」

「お前は下がれ。魂の探知は成功した。明日はレギウスを復活させ召喚の試運転に進む」

魔力の消費量は落ち着いている。ここから先は自分ひとりで問題ないと判断したバルトレッドは、その“気になるもの”をひとりで確認するためエギルに命じた。

「承知しました」

先ほどは珍しく小言を漏らしたエギルだったがあっさりと姿を消し、バルトレッドは再び視線を水晶へと戻す。

無数の記憶の中で偶然目に止まった”場面“。
肩を震わせ指先で目元を拭う姿。

「聖女様が涙を……なぜだ」

先ほどエギルから倫理という言葉を受けたばかりだったが、バルトレッドはその記憶に触れられずにはいられなかった。

ーー理由が知りたい。

死んだ後に送られる世界で見ていた紗希の瞳はいつだって温かくバルトレッドの物語を慈しんでいた。その瞳が曇っているなど、あってはならない。