エタってしまった小説の世界で、ヤンデレ化した勇者が離してくれません。~聖女と呼ばれ執愛されていますが……読者です!~

砕けた石柱。足元で青白く輝く謎の模様。
それから一目で釘付けになってしまうほどの美丈夫。

――なんて、綺麗な人だろう。

足元の光が反射してアメジストの瞳が複雑に輝いている。
透明度の高い白い肌や銀色の髪は、まるで全ての色を吸い込んでしまいそうで、そんな彼にはどこか神聖な雰囲気が漂っていた。

しかし、神の最高傑作かと思わせるほどの造形の美しい男と目が合った瞬間、ぞわりと素肌が粟立った。

形の良い薄い唇から覗く歯列が一瞬、飢えた獣の如く牙を剥いたような気がしたのだ。

人間、直感というのはなまじ馬鹿にならない。

綺麗だけど、何か変。

この感覚の答えを直後に理解する。

なぜなら男は目尻を和らげると、滑らかな所作で跪き、恭しく首を垂れ、それから頭を上げるなり陶然として言ったのだ。

「――あぁ、聖女様……やっとお会い出来ました……愛しています。どうか俺を最後まで連れていって下さい」

ーーいきなり、何?

歪む口元と荒い吐息は隠しきれておらず、恍惚とした表情が目の前に迫る。

いくら完全無欠の美麗な容姿を持っていても、初対面で息を荒げ愛を語る男性は不審者ではないだろうか。

そもそも不審な台詞以前に、見知らぬ場所に居ること自体、まったくもって理解が追いつかない。
確か先ほどまで終電の閑散とした電車に居たはずだ。


状況が分からず言葉を失っていると、いきなり男に手を取られ、唖然としているうちに指先に口付けられてしまった。
思わず腕を引いて振り払えば、今度は傷ついたように眉尻を下げられる。

「聖女さま……?」

不安そうな声。
なんなら気品あるアーモンド型の瞳は縋るようにこちらを見つめている。

その一連の出来事に若干身体が強張るのは、きっと本能的な反応に違いない。

端正な顔を前にしているというのに、感じるのは“この男、ヤバそう”というシグナルだった。