至高の一匙――オッサン料理人、人生後半で獣人の子供を育てる

 次の日から、料理大会に向けての準備が始まった。
 店が終わった後、二人で厨房に籠った。

「角煮も、美味しくできたね」
「煮卵もいい感じだなぁ」

 野菜と一緒に、角煮と卵を入れたビックリ煮込み完成版だ。
 卵だけは数がないので、鶏卵を使っている。

「カラスうずらの卵は大きいから、当日は煮込み時間が長くなる。火加減も気を付けないとな」
「はい!」

 晴がメモを取りながら、シャキッと返事した。
 タツキは角煮を皿に取った。
 しっかり汁を吸った角煮はほろほろと箸で崩れる。

「晴、口を開けな」
「あーん」

 晴が角煮をぱくりとした。

「んー……トロトロ、ふんわり、美味しい」

 晴が頬に手を添えて、美味しい顔をする。
 タツキも角煮をぱくりと頬張った。

「……うん、肉に野菜の旨味が染み込んでるな。煮卵も……」

 皿の上で煮卵を半分に割って、晴の口に持っていく。
 晴が大きく口を開いた。

「黄身がトロトロ、白身ぷりぷり。でも、ちょっとしょっぱいかも」

 晴が首を傾げた。
 タツキも、もう半分の煮卵をパクリとした。

「やっぱり鶏卵だと味が染みすぎるな。一個だけ入れてみたカラスうずらの卵を食べてみるか」

 七個しかない貴重な卵なので、多くは使えない。
 一個だけ使って、残りは本番用にとってある。
 鶏卵の三倍はある卵を鍋から取って二つに割る。
 中からとろりと黄身が流れた。

「晴、あーん」
「あーん」

 晴がカラスうずらの卵に食らいつく。
 その目が輝いた。

「美味しい! 僕、こんなに美味しい卵、初めてだよ!」

 晴がかなり感動している。

「どれどれ……」

 タツキも卵を口に入れた。
 濃厚な黄身が流れ出し、しっかりと味が染みた白身から噛むごとに出汁が染み出す。

 「……美味いな。コンソメで作った時より、断然美味い」

 出汁だけでなく、使う野菜も和風にして変えたからだろうか。
 予想を上回る美味さだ。

「晴の提案通り、ビックリ煮込みにして良かったな」

 驚きと本音が漏れた。
 晴が感動したように息を飲んだ。

「……うん!」

 微笑んだ晴の頭を撫でる。

「煮込みは寝かせも大事だが、俺が作った出汁なら作りたても充分、美味い。当日は、焦らず作るぞ」

 本番では寝かせる時間が充分に取れない。
 それも配慮した出汁を作ってある。

「わかった、師匠!」

 晴がメモに「焦らない」と書き込んだ。
 二人で顔を合わせて、笑った。

 豊穣祭の料理大会は二日後に迫っていた。