「え、お前今日誕生日やん、おめでと~」
別に嬉しくもない20歳の誕生日を大学の友達に祝われる。
「もうちょっと嬉しそうにしろよ」
購買で買ったプリンをくれたやつに小突かれるけど正直誕生日なんてすっかり忘れてたし20歳ってだけでなんか急に大人になったみたいでいい気持ちはしなかった。
「そういえばこないだ急に走り出した件は大丈夫だったん?」
「あぁ。大丈夫だった。あの日はごめんな」
「全然いいけどさ。運良かったな~まさか俺らの大学前に来てくれてるなんて」
「もっとはやく気づけたらよかったけど」
「まぁ、おとちゃん?だっけ?にケガなくてよかったじゃん」
それは本当にそう思う。
そんな話をしているとスマホが震えた。
「噂をすればおとちゃん?」
ニヤニヤしながらスマホを覗きこもうとする そいつを足で遠ざけメッセージを開く。
▶今日、夜、近くの海行きたいです
おとからの誘いなんて珍しい。
▷行こ~ 大学終わったら連絡するね
「小金が笑ってる~」
「小金のたばことパチンコやめさせる女の子ってなかなかすごいよな」
「しかも女の子関係とか全部切っちゃったしね。お前こんな静かな小金の誕生日過ごしたことあんの?」
友達間でなんか盛り上がってるけど無視して
▶やった! 待ってるね
という返事にスタンプを返して講義の準備をした。


「やほ、お待たせ」
おとは珍しく少しおしゃれをしていた。
いつもは「私なんかがおしゃれしたってかわいくないから意味がない」とか「どうせ似合わないから変に冒険したくないの」とか言って同じような服を着ているのに。
「可愛いね、似合ってるじゃん」
そう言うと明らかに顔を真っ赤にして「いこ!」と前を歩き出した。
目的地はそんなに遠くない近所の海辺。
今日は大学の授業が長い日だったからかなり暗くなってしまっていた。
「ここがいい」というおとに続いて小さな石にこしかけた。
「めっちゃ星よく見えるね」
「でしょ?ここお気に入りなの」
星座とか全然詳しくないけど近所にこんな場所があったなんて初めて知った。
当たりは静かで波の音と小さな虫たちの音しか聞こえない。
そんな静かな場所で、小さな小さな声が1つ落ちた。
「お誕生日おめでと」
おとのほうに目をやるとおともこちらを見上げた。
自信なさげに小さくなっている。
「ありがと」
その言葉を聞いて安心したように、嬉しそうにうなずいてまた星に目をやった。
つられて星を見る。
「私ね」
さっきよりも強い声。
「昔の自分から卒業する」
「昔の自分?」
「うん。病気は完治するものじゃないしトラウマだったりネガティブな自分を完璧に払拭することはできない。また死にたくてどうしようもなくなるだろうし落ち込むことも沢山あると思う。それでも小金さんを信じられる自分を前より少し好きになれたから、これからちょっとずつ変わっていきたいんだ」
少し恥ずかしそうに「誕生日プレゼントも用意できなような奴だけど,,,」と付け加えるおとの目をまっすぐ見た。
少し成長したおとの目は前と違ってとても強く見えた。

「その言葉が1番の誕生日プレゼントだ」

おとの心の傷は深い。
そう簡単に癒えるものじゃない。
けど、この子が俺を必要じゃなくなるまでそっと見守って、その時が来るまで支え続けよう。
いつか来る卒業(わかれ)の時まで。
数多(あまた)ある星に向かって静かに祈った。

どうかこの子に、生きててよかったと思える日がきますように。