どうしようもない毎日だった。
俺自身、その自覚はあった。
大学2年になってからというもの1年の時より堕落した生活を送って、でも別にそれについて何とも思ってなかった。
別にいいじゃんって。
落単しない程度に大学通って、空きコマにパチンコ行って、近くのコンビニでタバコ買ってその足でバイトに行く。
なんとなくで生きてたら女の子たちが沢山誘ってくれるから、みんなに平等に接した。
それに怒ってどっか行っちゃう女の子とか、女の子同士で喧嘩しちゃったりとかもあったけど俺には関係ないから特に干渉もしなかった。

「お前人生イージーモードだろ」
友達と飲んでたらいきなりそんなことを言われた。
「なんで?」
「顔良いし、勉強してなくてもテストでいい点とれちゃうし、ヤニカスパチカスのくせに女の子寄ってくるし、おまけに酒は強いはスポーツ全般そつなくこなすは。俺がかわいそうじゃん」
「それな~俺お前とあってからまじで女の子に生まれなくてよかったって思ったもん」
「なんでよ」
「こんなん絶対好きになるじゃん。でも絶対好きになっちゃダメなやつじゃん」
「褒められすぎて気持ちいいわ」
「イケメンの戯言(ざれごと)うぜー」
この日はなぜか俺のおごりになった。
俺らがあまりにもかわいそうだっていう謎理論で。
みんなには俺ってそうやって見えてるんだな。

まあいっか。今が幸せなら。

何をもって幸せというのか、いまいちよく分からないけど。
じんせいいーじーもーどなら幸せなんだろう。

家に帰って真っ暗な部屋に電気をつける。
試しに「ただいま」と言ってみるけどもちろん返事はない。
こんなことはもう何年も昔からそうだった。
自分で望んだ1人暮らし。
意外とまともな生活を送っていた。
別に料理だって洗濯だって掃除だって全部初めての事じゃないから、高校生までの時と大差ない生活。
「あ、たばこ切らしてた」
正直面倒だったけど
明日1限からだしな~。
買いに行く暇ないよな~。
てゆうか今欲しいんだよな~。
葛藤の末買いに行くことにしてため息交じりで外に出た。

過剰な程に明るいコンビニ。
今日はこないだ連絡先を渡してきた女の子じゃなくて不愛想な男店員だった。
えー何こいつ。
さすがにいらっしゃいませくらいは言わない?
ため息つきながら裏から出てきて
「580円」
じゃないんだよ。
なーんか腹が立ってたばこ吸ってやろうと思っていつもは寄らない公園に寄った。
たばこって賛否両論なんだよなー。
だからなるべく「たばこ吸ってる人かっこいい」とか言ってる人の前かたばこ吸うやつの前でだけ吸うようにしてるけど、たまにこうやって勢い任せに吸いたくなる時がある。
とりあえずたばこに火をつけた時、
なんとなく人の気配がして振り返った。

え、人?
こんな時間に?
え、女の子?
怖い怖い。
俯いててよく分からない。
見えちゃいけないもの見えちゃってるとかじゃないよね?
よーく見てみるとそれはちゃんと人で、しかもやっぱり女の子だった。
高校生くらいじゃね?
こんな時間に何してんの。
酒も入ってたしイライラしてたのもあってなぜか声をかけたい衝動にかられた。
気づいたときにはもう体は動いていて、話しかけていた。

「こんなところで何してるの?」

ゆっくり顔を上げたその子はひどい顔をしていた。
この世に絶望しきったような、なにもかもあきらめてしまっているような。そんな顔。
目の前のその子は一瞬あった目をすぐにそらしてまたゆっくりと俯き始めた。
「なやんでるなら話聞くよ」
普通にちょっと興味があった。
けど
「死にたかった」
重そうな口を開いてやっと出てきた言葉がこれ。
髪の毛を耳にかける左手を見てなんとなく察した。
あーこれ、面倒なのに声かけちゃった奴じゃん。
話し半分で聞いてサクッと終わらして帰ろ。
そう思っていたのに。
名前も知らない目の前の子はずっとしゃべり続けた。
自分がいかに無知で、無能で、無価値化かと言う事を。
永遠に止まることなく気を抜いたら聞き洩らしてしまいそうな声量でしゃべり続けた。
いちおうなにか質問を投げかけられた時に聞いてなかったとバレたらヒステリック起こされてさらに面倒ごとになるのでちゃんと聞いておいた。

なんで泣かないんだろ。

話を聞いていて単純に思ったことだった。
こんなに辛そうだし、死にたいって気持ちも本物っぽいのに。
ここまで絶望すると人間って泣けなくなるのかな。
そんなことを考えながら聞いてたら今まで1本調子だった言葉から1つ、耳に頭に心にひっかかる言葉があった。

「誰かに、ちゃんと、本心で愛されたかったの」

なんでだろ。
何でにこの言葉が無視できない?
「あ、ご、ごめんなさい……」
自分が話過ぎたことに反省したのか、その子がパッと顔を上げて目が合った。

分かった。
何でこんなに引っかかるか。

「俺も」

「え,,,?」
困惑してるんだなとすぐに分かった。
「同じだね」
「おなじ?」

「俺も愛されたい」

目の前で出てきた言葉たちに困惑してるのは女の子の方で言った本人はいたって冷静だ。
凄いしっくりきた。
「ありがと」
ああ、ほんとに困惑してる。
その顔が少しおかしく静かに笑うともっと困惑顔になった。
この子、面白い。
死ぬにはまだ惜しいよ。君のような若者はもっと生きなきゃ。
「連絡先交換しようよ。困ったらいつでも連絡して。みんなと違って俺暇だから。教えてよ。その日あった良いことでも嫌な事でもなんでも」
断られるかなーと思ってきたけど案外すんなり連絡先をくれた。
''新山おと''
これがこの子の名前らしい。
病むとなにもかもどうでもよくなるタイプかな。
こういう子ってほんと危ない。
それは経験で分かる。
危ないことを平気でしてしまうから、この後何をしでかすか分からない。
「大丈夫です」というその子を半ば強引に家まで送った。