「あのな、ひらがなで『みなみ』っていうのはどうだろう」


「みなみ……ちゃん?」


「『なみ』は、おまえの佐波からとった。『み』は……うちのお袋から……。美津というんだ。漢字にしようかとも考えたんだが、ひらがなにしたいと思ってる」


「ひらがなに意味があるんですね」


「意味というか、……俺の好きな女二人からもらった名前だが、漢字をそのまま宛てたら、この子に背負わせ過ぎな気がしたんだ。この子の未来は白紙だから、何の色も添えないひらがなの名前を贈ってやりたい」


きっと、部長は物凄く悩んで、この名前に行き着いたんだ。
お母さんの名前を入れることだって、ためらったに違いない。
それでも、彼の中で大切な存在はもう揺らがない。


「みなみ、みなみちゃん」


私は部長の腕の中にいる我が子に呼び掛けた。