「私もあるとは思います。でも、もっと大事なことがある。それは赤ちゃんの『産まれる力』」


「産まれる……ちから?」


「母親は『産んであげる』んじゃないの。きっと、それじゃおこがましい。
赤ちゃんは勝手に産まれてくる。
母親はそれを助けるだけ。私たちインストラクターは助けの更に手助け役。産科医や助産師はママじゃ助けられない部分のカバー。
ね、見事に役割分担できてると思わない?」


「じゃあ、陣痛が起こらないのは、どうしてでしょう……」


私は鼻をすすりながら言う。


「それは残念だけど、わからない。赤ちゃんにしかわからない。
妊娠出産にはいまだに不明瞭な部分があるのも確かだけれど、
お産のスタートは赤ちゃんが決めると言われています。

ママは赤ちゃんの決めたタイミングで助けの手を伸ばすんです。
これって先々の育児でも似た場面があるように思いますよ」


母に言われたことを思い出す。
私が望まれたタイミングで産まれてこなかったのは、私が母とはすでに別な生命だったから。

確かにそう言われてたのに。

焦りで、ツラサで、
気付けば、原因を自分に求めていた。

裏を返せば、私はまだ、
自分さえ頑張れば陣痛を起こせるかもって足掻いてたんだ。