武州大学病院までは車で15分。
直線距離ならもっと近いんだけど、大きな幹線道路を通らなければならないから、どうしてもかかる。


美保子さんの陣痛は明らかに強くなっているみたい。
間隔も10分切ってる。

病院の夜間出入口には助産師さんがひとり待っていてくれた。

私が助手席から飛び出して行くと、慌てた助産師さんに止められる。


「そんなに急に動いちゃダメよ!」


「違う!違います!私じゃなくて!後部座席にいます!破水してます!」


私は怒鳴る。

そりゃ、そうか。
私も出産間近の妊婦だもんな。
間違えても無理はない。

助産師さんが持ってきた車椅子に乗せられて、美保子さんは院内へ。
私も付き添う。

ナースステーションで助産師さんが一瞬私たちから離れた。
待たされながら、私はハラハラ。
だって、美保子さん、すごく苦しそうな息遣い。


「佐波さん」


「なになに?痛い?」


覗き込むと、美保子さんが顔をしかめながら言う。


「先に頑張ってくるわ」


「うん……うん!やっとチビちゃんと会えるね」


「ええ、やっとこの手で抱ける。嬉しい」


美保子さんは薄く笑い、万感こもる声で呟いた。
その微笑みは忘れられないくらい美しかった。