「ゼンさん!美保子さん、陣痛みたい!」


私はソファで雑誌を読んでいた部長に叫ぶ。
興奮した私は迷惑も省みず、美保子さんに電話。


「もしもし?佐波さん」


電波の向こうの美保子さんは落ち着いている。


「だっだだ大丈夫!?」


「ええ、今朝、おしるしがあったの。それから少しずつ前駆陣痛が増えて、午後には規則的になったんだけど、まだ間隔が長いから待機してたのよ。今、ちょうど10分間隔。病院から来なさいって言われたから行くわ」


「ご主人いるんでしょう?」


「それが、ちょうど昨日から出張なの。そろそろ羽田につく頃だから、帰宅を待とうかとも思ったんだけど……。タクシーで行くことにする」


「ちょっちょっと待ってて!」


私は通話を保留にすると、部長に言う。


「美保子さん、今ひとりなんです!病院まで、送ってあげたいんですけど!」


話の流れを聞いていた部長は、すでに腰を浮かせていた。
車の鍵と財布をつかみ、答える。


「美保子さんちまで5分くらいだろう。すぐに行くって伝えろ」


かっ……カッコイイ。うちの旦那さん。