「今、帰ったぞー」


まるで自宅のように声をかけて、一色褝がオフィスに入ってきたのは、昼過ぎのことだった。


「ゼンくん、おみやげ!」


副部長の和泉さんが怒鳴るように言った。


「和泉さん、第一声がそれかよ。とりあえず、ハイお菓子」


「しけてるわねぇ」


オフィスにいたみんなが笑う。
私は笑えない。
うう、一色部長の顔見たらまた気持ち悪くなってきた。

和泉さんが引き続き声を張る。


「ゼンくん、帰国早々悪いけど、今夜飲み会だからよろしくね」


「え?なんの?」


「国治くんの送別会」


私は話を聞きながら、そうだったと思い出す。
今夜は飲み会。
体調的にはしんどい。


「えー?国治って、上のフロアに異動なだけだろ?」


「まー、それでも飲むわよ。社長がやろうって言ってんだから」


「自分が飲みたいだけだ、あのジジイ」


一色部長は悪態をつきながら、自らのデスクに戻る。