「僕、海老天蕎麦にします。一色さんと山内さんは?」


名前をきちんと呼ばれたのも初めてかもしれない。
当たり前のことだけど、日笠さんが私たちの名前を呼んだことに奇妙な感動すら覚える。

そのくらい、コミュニケーションの希薄な人だったから……。


「じゃ、私、冷やしたぬき」


夢子ちゃんが嬉しそうに言う。
私は疲れから思わず……


「きつね蕎麦、ミニカツ丼付き」


最高にボリューミーなオーダー。
ふっと笑う声に私と夢子ちゃんは一斉に振り向いた。


な、なんと!
あの日笠さんが笑っている。


「いや、すみません。妊婦さんってお腹が減るんですよね」


笑ってしまったことを恥じるように、日笠さんは咳払いする。