お母さんは隣町の特別養護老人ホームに入所しているそうだ。

部長の年を考えれば、お母さんはまだ58歳。
老人と呼ぶには早すぎる年齢だ。


行きがけに、部長が昔住んでいたお寺の近くを通った。
小高い丘に立地したその寺院。
緑の中に垣間見える建物は真新しく、白い壁に日光を反射させている。


「建て替えたんだな。もう、俺が住んでいた頃の面影はない」


部長がわずかに感傷を差し挟んだ声音で呟いた。

部長がお母さんと亡きお父さんと暮らしたお寺。
10年間の幸福な日々の住処は、もう部長の心の中にしかない。