社長は言葉を切った。

それから、ゆっくりと私の手の甲に自らの手を重ねた。


「あいつのことを頼みたいんだ。あいつは母親を置き去りにしている罪悪感で、会いにも行けない、きみにも言えなくなっているのかもしれない」


私は眉を寄せ、再びうつむいた。

私なんかに彼をどうこうできる力があるとは思えなかった。

事故みたいに結婚して、子どもを迎えようとしている私たち。
それなりに絆は生まれてきている。

でも、彼が大事にしている部分に私が踏み込んでいいんだろうか。

彼を嫌な気持ちにさせてしまわないだろうか。


「何をしてほしいわけでもないんだ」


社長が続けて言う。


「あいつの本心に寄り添ってやってほしい」


私は理解を表すために頷いた。
頭の中で煩悶は続いていた。