「それから10年と少し。ゼンの母親の病はだいぶ進んだようだ。実はあいつの叔父さんとも連絡を取っていてね。つい先日も具合があまり良くないと連絡をもらったばかりだった。ゼンにも連絡しているようなんだが……」


それで、社長は私をお茶に誘ったんだ。
何か聞いていないかと思って。

でも私は何も知らない。

部長は欠片も態度に見せていない。

どうして言ってくれないんだろう。

私は彼のお嫁さんなのに……。


「佐波くん」


社長が私の名を呼び、私は自分が知らずにうつむいていたことに気付いた。
弾かれたように顔を上げる。


「ゼンがきみに言わないのは、身重のきみに負担をかけたくないからだと思うんだ。あいつなりに良い時期を考えているんだと思う。だけど」