「時田さんが携わったその妊婦さんもね、うわ言みたいに言ってたんですって。『赤ちゃんだけは助けて』時田さんの手を握って。
彼女は言ってたわ。『私はあの時頷いてあげられませんでした。確実に助けられるとは思わなかったから。でも、頷いてあげられたら、どれほど彼女の心をなぐさめられたかと今でも思うんです』

彼女、少し冷たく見えるけど、真面目で、妊婦さんの気持ちに添いたいと考えてる助産師なんですよ。悪く、思わないでやってね」


私は頷いた。
ショックな話に、
そうするしかできなかった。

天池さんが仕事に戻り、
部長の点滴が終わるまでの残り一時間、
私はぼんやりしていた。


いろんなことが頭を過った。

仲良しの妊婦さんの死に立ち会った時田さん。彼女はどんな想いだったんだろう?
今、どんな気持ちで助産師をしているんだろう。

赤ちゃんをその腕に抱けなかった妊婦さん。彼女の無念と祈りはどれほどだろう。
残された赤ちゃんと旦那さんは二人で生きているんだろうか。


病気じゃないから、お産は安全。

そんな風にどこかで私も思っていた。

でも、実際はそうじゃない。
私は今回、その一端に触れた。