私は天を仰ぐ。
見えるのは処置室の天井だけど、心の晴れやかさといったらなかった。

ポンちゃんは元気だった。
それだけで、もう何にもいらない気がする。

母親ってすごい生き物だ。
子どもに何かあったら……そう考えた時の恐怖、危機感。
自分の命すら投げ出したってかまわないと思えた。

沸き起こるパワーとせめぎあう過剰なまでの不安。

妊娠しなければ、わからなかったことだらけだ。


すると、処置室のドアが開いた。
入ってきたのはメガネっこ助産師、時田さん。


「何事もなくて、よかったですね」


彼女は私の前にやってくると、すっかりいつものツンツン口調に戻って言った。
私は幾分か打ち解けた気持ちになって、へらっと笑った。


「いやぁ、大袈裟でした。お騒がせしました」


「いえ、きちんと出血に気付いてすぐに受診した一色さんの判断は正解です」