彼女の通院する武州大学病院。
思い出した 。
転院先を探していた時、ネットで見た。

不妊治療で有名な病院だった……。


「妊娠に集中したくて、長年勤めた会社も辞めて、体外受精に踏み切ったわ。費用はかかるけど、夫は賛成してくれた。私は絶対赤ちゃんが欲しかったし、毎日注射するのも苦にならなかった。

でも、心は不健全だったと思う。
暇さえあれば、ネットで不妊について調べちゃうの。そして、どうして私のところに赤ちゃんがやってこないのか考えるの。毎日が辛くて辛くて、狂いそうだった。

二回、体外受精にチャレンジしたけど、一度目は着床しなかった。二度目は着床したけど、育ってくれなかったわ」


苦しいはずの話を美保子さんは静かに語った。
感情を見せないことが、逆に彼女の歩んできた道程を表しているかのようだった。


「二度目の失敗の後よ。私は誕生日ケーキを買ったの。いなくなってしまったあの子。もし、産まれていれば、今日で一歳って日にね。『一歳おめでとう』ってプレートものせてもらって。

家でお祝いのごちそうを作っていたら、夫が帰ってきた。
私が産まれなかった子の誕生日祝いをしようとしているって知って、彼は泣き出したの。
流産の時も泣かなかった彼が、
声を上げて、私を抱き締めてね。

『美保子、もうやめよう』って。

『抱くことはできなかったけど、僕たちは子どもを授かった。それで、もういいじゃないか。新しい赤ちゃんなんて、いらないじゃないか』って。

私はその時ようやく気付いた。

私の一途な願いが、彼を苦しめていたことに」