すると、美保子さんがふわっと微笑んだ。


「少し、この子のこと話してもいい?」


この子。
エコーにかすかに映るいなくなった彼女の赤ちゃんのこと。

私は頷いた。


「30歳で結婚して、3年目にこの子がやってきてくれたの。私も夫もすごく嬉しくて、妊娠がわかってからは世界中がキラキラに輝いて見えた。

でも、10週目で急に出血があって。病院に行ったら、すでに赤ちゃんは私の中にいなかった。天国から地獄。まさにこの事だと思ったわ」


美保子さんは淡々と語る。
私はじっくりと話を聞くために、椅子にかけた。


「悠長に次の赤ちゃんを待つなんて思えなかった。病院で即、不妊検査。夫も協力してくれてね。

結果、異常はなかった。そこから、タイミング法で妊娠を待つことにしたの。毎月、排卵日に義務のようにセックスをして、生理が来ると涙が止まらないの。
赤ちゃんができなかった悲しみだけじゃない。いなくなってしまったあの子のことを思い出すの。
どうして?私が悪かったから、いってしまったのかなって。

一年間タイミング法を試したわ。死んでしまったあの子の出産予定日の頃はすごく辛かった。あのまま育ってくれていたら、今頃は抱っこできたのに」