私は肩を叩く代わりに、部長の髪を撫でた。

硬い黒髪。
うんうん、毛根は丈夫そう。


「愛想尽かしたりなんかしませんよ」


私は髪を撫でながら呟いた。


「あなたの印象は『超絶苦手』からスタートしてるんだから、後は上がる一方でしょ」


それにこの人、私が思っていた以上に妊娠生活に理解が深い。
このノリなら、子どもが産まれてからも、育児協力の期待ができそうだけどな。
イクメンって言葉は死ぬほど似合わないけど。


「私も頑張るんで、仲良くやっていきましょうよ」


部長は目を覚まさない。

聞こえていないくらいでちょうどいい。
私はしばらく髪を撫でながら、不思議な幸福感を味わっていた。