部長は右頬をテーブルに倒した。
左手で溶けた氷入りのグラスをもてあそぶ。


「仕事以外に気をまわせるようになるまで、……彼女は作らないつもりでいた。なのに彼女どころか、……女房と子どもができちまった。
俺は何にも変わってないのに……」


「部長……」


「おまえやポンにも……愛想を尽かされる日が来るかもしれない。だから……」


そこまで言って、次の言葉は無かった。

顔を覗くと、部長はグーピー寝ていた。


「おいおい、酔っぱらい……」


私はもう一度、よいどれ部長を起こそうと立ち上がった。
テーブルを回り込んで肩を叩こうとして、一瞬思いとどまる。



部長がそんなことを考えていたのは、軽い衝撃だった。

いつだって自信満々で、仕事の鬼で、自他ともに認めるイケメンで。

気づかなかったよ。
私とポンちゃんに捨てられるかもなんて、不安を抱えてたんだ……。