「ふーん、でも、それもご縁ってやつだわね」


母は何も気にしてない様子だ。


「私、知らなかった。お母さんたちが、8年も赤ちゃんできるの待ってたなんて」


「まあ、話さなくてもいいことかなって思っただけよ。不妊治療したわけじゃないし、私も仕事してたしね。でもお父さんは自分が年上だからって気にしてたなぁ」


父は母より6歳年上だ。
私と部長の年の差と対して変わらない。
母はカートにかごをセットし歩き出す。


「あんたが産まれたら、それまでの寂しさや不安は忘れちゃった。忙しくなったし、毎日が必死で。
私もお父さんもあんたから、たくさん幸せをもらったよ。だから、私は今、単純に嬉しいの」


私は横を歩く母を見つめる。
母が若々しく笑った。


「私の産んだ娘が、母親になろうとしてることが嬉しいの。佐波が子どもを授かる幸福を味わえるんだもん」