「まかせろ。やり方は知っているぞ」
「変なところはさわらないでよね。その画面以外開いたらパンチするからね」
「何と書けばいい?」
「おめでとうでいいよ」
「適当だな。だめだぞ、もっと心を込めて言葉を贈らねば」
返信画面を見つめながら、常葉がゆっくりとボタンを押していく。
「いいんだよそれで。ただの報告だし、向こうもそんなに期待してないよ。いつも一言ずつしか送らないし」
「だとしても、誰かに届ける言葉なら、長短は関係なく、大切に考え大切に書くべきだ」
ケータイの画面に、少しずつ『おめでとう』の文字が浮かんでいく。いつも、わたしなら、1分もかけずに打って送っちゃう内容。
「誰かに届ける言葉って……メールとか、手紙とか?」
「そうだな」
「ふうん。それってさ、人にじゃなくて、絵馬みたいに、神様にお願いするものもだよね」
「当然だ」
「……七夕で、願いごと書く、短冊とかも?」
絵文字を捜し当てた常葉が、語尾におにぎりの絵文字を付けていた。
1行空けて、あとは勝手に打ち始める。
「あれも、そうだな。皆心を込めて願いを書き、空に祈るだろう」
「うん」
「言葉は形にできるが心はそうはいかん。だからこそどんな形であれ丁寧に紡ぐことだ。そうすれば届く言葉の中に、心も乗せることができる」
「心も届く?」
「そうだ」
「ふうん」
ピコピコと、画面に文字が増えていく。
常葉は、わたしが考えた『おめでとう』のあとに、『おうえんするぞ』とインド人の顔の絵文字を打って、送信した。