そんなことを思っていたぼくと、仲井さんはすっかり忘れていた。自分達の関係を。


「ふふ、それにしても驚いたな。志穂に彼氏ができるなんてね。英輔くんと結婚しても、苗字には困らないね。お父さん」

「中井くんなら志穂を任せられそうだよ。本気で志穂を想ってくれているのだから。ナカイ繋がりで面白いじゃないか」


いつの間にか公認の仲になっているんですけど……。


ぼくと仲井さんは顔を見合わせ、引きつり笑いを浮かべた。

どうしよう、期間限定の関係だなんて口が裂けても言えないじゃないか――いや、言いたくない。期間限定の関係だなんて。気持ちが戻ったらおしまい、なんて。


そこでぼくは気付く。

この関係を、ぼくは終わらせたくない自分がいることを。


(それって、つまり?)


家に帰ったぼくは、自分の気持ちと向かい合った。

仲井さんはぼくのタイプじゃないし、人種としても合わないはずだった。


気持ちが元に戻れば、あの視聴覚で過ごす時間もなくなり、親しく話すことも少なくなる。


それが嫌で堪らない。


仲井さんの笑う姿を知った。泣く姿を見た。

夢を聞き、それに向かって努力する彼女が素敵だと思った。


どこまでも、ひたむきにがんばる姿に応援したくなる。仲井さんを想うだけで胸が熱くなる。

もっと彼女の笑顔を見たい。ひとりじめしたい。何かしてやりたい。


ああもう、これってつまり、そうじゃないか。


「あ。仲井さんからだ」


スマホに届く、彼女からのメッセージ。


はじめて仲井さんからもらった連絡は、


『中井くんのおかげで前に進めたよ。本当にありがとう。また絵を描こうね』


ばかみたいに喜んでしまうぼくは認めざるを得ない。



「中井は仲井に恋をした。これはナカナカに難しい恋だ、なーんてな」




⇒【5】