「あ、ホラー映画はやめてね。わたし、怖いのだめだし」

「でも観ているんだろう?」

「こ、怖いから先にネタバレを読むよ……それくらいしないとだめ。本当にだめ」


「うっわ! ネタバレを先に読んでおくとか、映画のご法度じゃないか。どんでん返しがあってこそのホラーなのに、結末を知ってから観るとか!」


「わたしは怖がりなの!」


論外だと叫ぶぼくに、仲井さんが怖いものはしかたがないと反論してくる。


だからホラー映画以外で、オススメの映画を教えて欲しいと彼女は唇を尖らせた。

ホラーじゃなければ、アクションでもSFでもファンタジーでもいいらしい。

恋愛映画だったら、なお嬉しいと言ってくるけど、それはぼくの専門外だ。


「分かった。じゃあ、仲井さんでも楽しめそうな雑誌を持って来てあげるよ。そこから選んでみて。恋愛映画も載っている映画雑誌も、いくつか持っているし」

「わ、ありがとう中井くん。お礼に恋愛映画好きにしておくね、中井くんの気持ち」

「いらないお礼じゃんそれ。なら、ぼくは……ホラーなイラストを描くよ。仲井さんの気持ちが元に戻る頃には、あら不思議。ホラーが描きたくなっているはず」


仕返しを言ってやれば、「やだそれ」と、仲井さんが嘆いた。

ついでに中井くんの意地悪だと“ヒヨコ”になる。



それはいつもの光景だけど、実はちょっと違う。

会話の節々で彼女と砕けたやり取りが存在した。

これは、少しだけ仲井さんと距離が縮まったと思っていいかな。

ぼくは仲井さんの一喜一憂する表情を眺めながら、心のどこかで喜びを感じていた。

変なの、ヒヨコになる仲井さんがちょっとだけ可愛いと思うなんて。



あれかな。

彼女の気持ちをぼくが持っているから、そんなことを思うのかな。




⇒【3】