「ギターを始めたのは、小学五年生……だったかな」
意を決したぼくはゆっくりと口を開き、語りを始める。
あれは小学五年生のお正月のことだった。
田舎に住んでいるばあちゃんの家に親戚一同が集まった。
恒例となっている行事だった。
そこで、いつも遊んでくれる大学生の従兄弟の兄ちゃんがアコースティックギターを持ってきていた。
それがすべてのはじまり。
ぼくはギターに興味津々だった。
楽器の名前は知っていても、現物を見るのは初めてで、それがどんな風に音を奏でるのか、曲を弾いてくれるのか、想像もつかなかった。
だから兄ちゃんがギターを弾き始めた時の衝撃はすごかった。
曲とか、音とか、そんなものよりもなによりも、ギターを弾く姿がカッコイイ。
左手の指で弦を押さえ、右手の指で弦を弾く、その姿が本当にカッコ良く見えた。
ただでさえカッコイイのに、兄ちゃんに曲をリクエストすると、メロディを奏でてくくれた。どんな曲だって弾いてくれた。
それがまたカッコ良かった。
ヒーローのようにも思えたし、ちょっと大人びた感じが男心をくすぐられた。
あっという間にギターの虜になったぼくを察した兄ちゃんが、『弾いてみるか?』と、ギターを触らせてくれた瞬間は今も覚えている。
大きなギターを抱えるように持ったことも。
硬い弦をちっとも押さえられなかったことも。
それにぼくがぶう垂れたことも、兄ちゃんが大笑いしたことも。
ばあちゃんの家にいる間、ずっとギターを触っていた。
あまりにも夢中になっていたものだから、兄ちゃんはぼくに一つの提案をしてきた。
『英輔。おれの家に使っていないギターがあるんだけど、そんなに気に入ったなら貸してやろうか?』
後日、兄ちゃんはぼくの家までギターを届けてくれる。
それは、古くて安い型のエレキギターだった。
両親が呆れるほど大はしゃぎしたぼくは、そこでたくさんのことを学んだ。
楽譜の読み方はもちろん、ギターの手入れから、エレキギターに必要な道具から、練習の仕方から。