「な、中井くん。今から学校なんて無理だよ。閉まっているかもしれないし、わたし達は制服じゃないんだよ。学校に入れないよ。例の雑誌や本も持っていないし」


真上の空はすっかり色を変え、星が瞬き始める。夜が訪れたようだ。


バスを降りて地元に戻ったぼくは、仲井さんの腕を引いて夜道を突き進むように歩いていく。


目指すは学校だ。それしか頭にない。


彼女が必死に無理だ、落ち着いて、止まって、と訴えるけど足は止まらない。思いも止まらない。


早く元に戻らないと、戻らないと。


そればかりがぼくを急かす。


「痛いよ、中井くん!」


道の途中、仲井さんが足を踏ん張る。

それによって歩調が遅くなった。非力な彼女じゃぼくを止められないようだ。


「急にどうしたの。わたし達、何度も元に戻ろうとしたよ? でも、できなかったから様子を見ようって話になったでしょ」

「今回は元に戻れるかもしれないだろ? 返してもらうよ、ぼくの気持ち。それは仲井さんが持っていちゃいけない」


持っているだけ、きっと仲井さんは傷付く。

それは傷付けることしかできないものなんだ。


彼女の気持ちのように、楽しい気持ちにさせたり、嬉しい気持ちにさせたり、感動させる気持ちにさせてくれるものじゃない。


ただただ、苦しくて、つらくて、重たいものなんだ。

映画だけなら仲井さんに預けておけた、ぼくの気持ち。


そこにべつの気持ちが宿っているなら、今すぐ元に戻らないと。


「無理だって!」声音を張ってくる仲井さんに苛立ちを覚え、「やってみないと分からないだろ!」と反論する。


「挑戦してもいないのに、なんで仲井さんが結果を決めているんだよ」

「なんとなく分かるよ。今回も失敗するって。それに今の中井くんは、戻りたいからやろうとしているんじゃない。何かから逃げようとしているから戻ろうとしている。わたしから逃げようとしているの?」

「そんなことヒトコトも言っていないだろ?!」

「態度で言っているじゃんか!」

そうでなければ、急に態度を変えて元に戻ろうなんて言わないし、今から学校へ行こうなんて言わないと仲井さんが強く言い放った。


「いつもの中井くんらしくないよ! なんで、わたしから逃げようとするの!」

「だから、ぼくは逃げていないって言っているじゃん!」