子供じゃないんだし、まさかこんなことで眠れなくなるなんて思わなかった。
夜、静かな部屋で目を閉じると、子供の頃の記憶がよみがえって、眠りに落ちる邪魔をする。
仲よしだった両親。
健在だった祖父母。
まだ兄との差を理解していなかった私。
寝返りを打って、もっと最近のことを思い返してみた。
私が高校に上がる時、兄は家を出ていった。
当時の私はエスカレーターとはいえ一応受験もあって、まあそれなりに、自分のことでいっぱいいっぱいだった。
高校の3年間は、今思えば部活漬けだった。
土日の練習にはお母さんがお弁当をつくってくれて、大会には両親そろって応援に来てくれたこともあった。
――いつから?
お母さん、お父さん、いつから?
いつから、家族であることを、終わりにしようと思ってた?
私の親であることを、やめようと思ってた?
「思ったより全然、ショック」
「タイミングが酷いよ。これじゃどうやったって、みずほが家を出て、親がせいせいしてるように思えちゃうじゃん」
朝食中の真衣子の言葉に、私は目を瞬いた。
「それだ!」
「どれよ」
「今まで、私のために無理やり家族をしてたのかなって気がしてるの」
「思いこみだよ、忘れな」
「真衣子のおみおつけ、おいしいね」
「自家製のダシを持ってきたの。母親が送ってくれるんだ」
これに勝るものはないね、と誇らしげに言う真衣子のご両親も、真衣子が高校生の頃に離婚していることを、私は以前聞いていた。
明け方近くから、少しだけまどろんだ私は、起床時刻になるなり、ちょっとそこ座んなさい、と真衣子に手招きされた。
『何があったか話しなさい』
『えっ?』
『寝てないでしょ、あんた』
『ごめん! 気になった?』
『別に気配がうるさかったとか、そういうんじゃないよ。その前から様子が変だって、聞いてたの』