ところで消滅するバイトって、何?

世の中って、知らないことだらけだなあと思って尋ねると、加治くんがほがらかに笑い声をあげる。



「贈答用の果物を選別して箱詰めするっていう、産地ならではの季節バイトがあってね」

「お中元とか、暑中お見舞いのってこと?」

「そう、でもある農家で、台風で全部実が落ちちゃって、その工場に収穫が入らなかったんだ。それで任期が短くなったわけ」

「なんだか、おいしそうなバイト」



いい香りがしそう。

そう言うと、しばらくその果物を見たくもなくなるよ、と笑われた。


いいなあ、やっぱり私もアルバイト、したいな。

夏休みの後半、何か探してみようかな。



「そろそろ合宿所に戻るみたいだよ、行こ」



確かに少し先のパラソルの下で、片づけが始まっている。

ん、と手を差し出されてしまうと、どうするわけにもいかず、おずおずと出した左手を、加治くんが握る。


どきんとしたことに、安心した。

やっぱり私は、男の子に不慣れすぎるんだ。

だからB先輩といても、何かしらドキドキしてしまうんだ。


ほんとにそう思ってる? という心の声に、聞こえないふりをして歩きはじめると、ポケットの中で携帯が震えた。

ちょっとごめんね、と断って開くと、兄だ。

手を離す理由ができたことに、うしろめたい思いでほっとしながら出ると、今いいか、という硬い声がした。



『電話でする話じゃないんだけど、でもお前だけあとで知るのもおかしいだろ、ごめんな』



さっぱりわからないながらも、明らかにいつもと違う兄の様子に不安になる。

ポケットに入れた片手で、パーカーの裏地をぎゅっとつかんだ。



「何…?」

『父さんと母さん、別れるらしい』